渡り鳥の旅立ちの春2013.03.18

 このところ、庭先の梅にメジロがよく訪れます。高い声で囀りながら八分咲きの紅梅の枝を飛びまわって花の蜜を吸う姿がとても愛らしくて、気がつくと、ついメジロの姿を探しています。

  日本野鳥の会の情報では、今年はすでに北関東にもツバメが飛来しているようです。気の早い夏鳥も、南から渡ってきます。ここしばらくはウグイス、ツバメ、カケスなどの夏鳥と、日本で冬を越したハクチョウ、カモ類、ツグミなどの冬鳥が行き交う楽しい季節です。

  さて、太古から鳥の渡りは人間にとって大きな謎でした。たとえば、古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、ツバメは木のウロや泥の中で冬眠すると考えていました。
  最近は人工衛星やGPSを使った調査のおかげで、ツバメは平均気温9.4度で渡りが始まること、長寿記録は8年11カ月(出典:山科鳥類研究所)等がわ かってきました。もっとも、ツバメは事故死する率が高いので、平均寿命は1年半くらいとも言われ、まだまだわからないことばかりです。

  旧約聖書に出てくるソロモン王は、動物と話せる魔法の指輪を持っていたといいます。私たちがツバメと話せて、渡りの冒険談や苦労話など、直接ツバメに聞けたらどんなに楽しいでしょう。

  動物達への学問的な理解によって、「ソロモンの指輪」なしでさまざまな動物能の生態を知る夢を実現したのは、ウィーンの科学者コンラート・ローレンツ博 士。1930年代に彼の行ったハイイロガンの実証実験は、動物行動学を確固とした学問とし、動物と人間の距離を劇的に縮めました。

  それはある手違いで、一羽のハイイロガンのヒナに博士が自分の親だと認識されてしまったことから始まります。野生の世界では親とはぐれることは死に直結し ます。博士は孵化したハイイロガンのヒナを子育て上手なガチョウに育てさせようとしましたが、そのハイイロガンのヒナは頑としてガチョウを自分の親にする ことを拒み、必死で博士の後を追い続けました。

  困ったのはローレンツ博士です。ハイイロガンやガチョウは比較的子育ての期間が長く、その間に飛行や遊泳、餌を取ることなどのすべてに親がかかわって教え ざるを得ません。その結果、博士はマルティナと名付けたそのヒナを「立派なハイイロガンの成鳥に育てあげる」という途方もない義務を背負うことになったの です。

  結果として、マルティナはなんとか立派な成鳥となり、ハイイロガンの夫を得て、寒くなる前に南の国に渡っていきました。半年後に戻ってくるとはいえ、博士は、高く飛んでいくハイイロガンの群れを、こみあげる感動に浸りながら見えなくなるまで見送っていたそうです。

  春は別れの季節でもあります。懐かしい場所から新たに旅立つ人にも、大切な人を見送る人にも、心より幸多きことをお祈り申し上げます。

コラムニスト 鈴木 百合子